きょうで、10社目の面接。
履きなれない革靴が、疲れた足を締め付ける。

「就職・・・できないかもしれないな」

「希望」と「あきらめ」を両天秤に乗せ
公園の中をとぼとぼと歩く。

「すいませーん」
元気な声に振り返ると、足もとに転がる野球ボール。

「いいな~小学生は・・・遊ぶことが仕事かよ」
口には出さず、投げ返す。

その瞬間、小学校6年生の最後の大会が
脳裏に浮かぶ。

 

6年間、ベンチを温めてきたボクは 打てる気がしなかった。

最後の試合だからと、監督が代打に指名してくれたけど
正直、迷惑だなって思ったんだ。

あっという間に、ツーストライクに追い込まれる。
焦る気持ちと、打ちたい気持ちが交錯する。

母と目が合う。

いつもの調子で「できるできる」と縦に2回首をふる。
胸の前で合わせた手に、ぐっと力が入っている。

素振りの数なら、誰にも負けない。
「打てる打てる」自分に呪文をかける。

6球目。ぼてぼてのセカンドゴロだったけど、
3塁ランナーがかえって逆転。

ベンチに戻ると「よくあきらめなかったな」と
監督にヘルメットをたたかれた。

 

公園を背に、疲れた足をとめ、カバンの中に手を入れる。
「就職したら使って」
母が買ってくれた新しい印鑑が、指先に触れる。

「できるできる」
昔も今も変わらない、母の口癖を思い出す。
この言葉のおかげで、いろんなことを乗り越えてきた。

印鑑を握り、ギュッと力をこめる。

「よーし!また明日からがんばるか」

顔を上げ、背筋を伸ばす。
夕焼けのオレンジが、輝いている。

春には就職。
社会人になる!