契約書の訂正方法は?訂正印・捨印などを用いる場合の手順を解説
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「契約書にミスがあったので、訂正方法を知りたい」
「訂正印の押し方は?誰が押すべき?」
契約書の訂正方法について、このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
この記事では、訂正印・捨印などを用いた契約書の訂正方法について解説します。
訂正における注意点・よくある質問もまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。
【原則】契約書の訂正には当事者全員の合意が必要
契約書を訂正するときは、当事者全員で合意するのが原則です。
当事者の一方が勝手に契約書を訂正しても、その訂正は効力を発揮しません。
そればかりか、私文書の変造として刑事罰の対象となる可能性があり、その場合は3か月以上5年以下の懲役が科されます。
契約書を訂正するときは、必ず相手方から同意を得るようにしましょう。
契約書の訂正方法
契約書の訂正方法は、主に5つあります。
誤字・脱字などの小さな訂正であれば、訂正印や捨印で対応するケースがほとんどです。
また、実質的な内容の訂正であれば、変更契約・契約書の再作成がよいでしょう。
訂正印と二重線で契約書を訂正する
訂正印での訂正は、誤字・脱字などの小さな誤りを直すのに最適です。
注意点として、契約書に使う訂正印には、契約書の締結時に押印した印鑑と同じものを使用しましょう。
契約時と同じ印鑑を用いることによって、訂正する権限のある人物が訂正を行ったことが証明できます。
そのため、訂正専用に販売されている、いわゆる「訂正印」を用いると訂正が無効となる場合があります。
訂正印で契約書を訂正する主な手順は、以下の通りです。
- 訂正する文字に、二重線を引きます。
- 二重線を引いた文字の上部に訂正後の文字を記入し、その隣に訂正印を押します。
- 「2文字削除 2文字追加」のように、削除する文字数と追加する文字数を記入します。
※記入スペースがない場合は、下部に書いても構いません。
※「削除」は「抹消」、「追加」は「加入」「加筆」でもOKです。
より詳細な手順は、下記リンク先をご覧ください。
文字の種類(漢字、ひらがな、英数字、数字など)を問わず、すべて1文字ずつ数えます。
たとえば、「3月末」を「4月30日」に訂正した場合は、「3文字削除 5文字追加」となります。
捨印で契約書を訂正する
捨印は、相手方や代理人が訂正印として使用できるように、契約書の余白にあらかじめ印鑑を押したものです。
捨印で契約書を訂正する場合は、訂正内容を捨印の隣に記入します。
捨印で契約書を訂正する手順は、以下の通りです。
- 訂正する文字に、二重線を引きます。
- 捨印の隣に、削除・追加する文字数を「2文字削除 2文字追加」のように記入します。
なお、捨印は相手方に訂正の権限を与えるため、知らぬうちに契約書を改ざんされる恐れがあります。
トラブルを防ぐためにも、捨印を押してもよいかは慎重に判断しましょう。
一部変更契約を締結して契約書を訂正する
一部変更契約とは、契約書全体の効力を維持しながら一部のみを変更する契約のことです。
実質的な内容を訂正するものの、訂正の分量が比較的少ない場合に適しています。
なお、原契約書と同じく当事者全員の署名(サイン)や押印が必要となります。
一部変更契約に記載すべき項目は、以下の通りです。
- 契約の当事者名
- 訂正または変更する契約書(例:甲及び乙の間の×年×月×日付〇〇契約書)
- 内容の一部を変更する旨
- 訂正する箇所の変更前・変更後の文面
- 効力が発生する年月日
記載例
○○一部変更契約書
〇〇株式会社(以下「甲」とする)と△△株式会社(以下「乙」とする)は、甲及び乙の間の□年□月□日付〇〇契約書(以下「原契約」とする)に関して、以下の通り、一部変更契約書(以下「本変更契約」とする)を締結する。本変更契約で用いる用語は、別途定義される場合を除き、原契約において定義された意味を有する。
第1条(原契約の変更)
- 原契約第○条を以下のように変更する。
(変更前)
……
(変更後)
…… - 原契約第○条第○項を削除する。
- 原契約第○条として、以下の条文を追加する。
第〇条……
以下後文、署名欄
※一部変更契約のタイトルは、「一部変更契約」ではなく覚書(合意書)としても問題ありません。
全面変更契約を締結して契約書を訂正する
全面変更契約とは、契約書のすべて、または大部分を変更する契約のことです。
契約書の実質的な内容を訂正し、訂正の分量が比較的多い場合に適しています。
なお、契約書全体を把握しやすくするために、一部変更の場合でも全面変更契約を用いるケースがあります。
全面変更契約では、前文で全面的な変更を行う旨を明記し、訂正を反映した本文すべてを記載します。
注意点として、全面変更契約は訂正前から変更した部分が分かりにくくなります。
訂正履歴を残したり、ツールで変更箇所を確認するといった工夫を行い、双方のやりとりをスムーズにしましょう。
記載例
○○全面変更契約書
〇〇株式会社(以下「甲」とする)と△△株式会社(以下「乙」とする)は、甲及び乙の間の□年□月□日付〇〇契約書(以下「原契約」とする)に関して、以下の通り、全面変更契約書(以下「本変更契約」とする)を締結する。
第1条(定義)
……
契約書を再作成する
契約内容が大きく変更になる場合は、契約書を再作成するのがおすすめです。
新たに作成した契約書には、当事者全員の署名(サイン)や押印が必要となります。
なお、後々に混乱が起きないよう以前の契約書は破棄し、当事者全員が破棄を確認しておくとよいでしょう。
契約書の訂正箇所から最適な訂正方法を選ぶ
誤字・脱字などの小さな訂正であれば、訂正印や捨印で対応するケースがほとんどです。
また、実質的な内容の訂正であれば、変更契約・契約書の再作成がよいでしょう。
訂正箇所が少ない場合 | 訂正箇所が多い場合 | 実質的な内容を訂正する場合 |
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※一般的な例であり、厳密なものではありません。
契約書を訂正するタイミングから最適な方法を選ぶ
契約交渉の初期段階で訂正する場合
契約の初期段階は契約書のデータ修正が可能なため、この時点で出来る限り間違いや不適切な表現を修正しておきましょう。
誤字・脱字はもちろん、当事者全員で契約書の内容に問題がないかの確認も大切です。
署名(サイン)や押印の直前に訂正する場合
誤字・脱字などの小さな誤りの場合は、訂正印による訂正が適しています。
契約書を作り直すと、発見した誤字・脱字以外の部分が書き換えられる恐れがあるためです。
一方で、金額や支払い条件といった重要な項目の誤りであれば、契約書を作り直すのが適切です。
作り直した契約書は、対象部分以外に改変がないかきちんと確認しましょう。
署名(サイン)や押印の後に訂正する場合
署名(サイン)や押印を済ませた後に誤りが見つかった場合は、訂正印で訂正しましょう。
なお、当事者双方で契約内容の一部変更・特約事項の追加が決まった場合は、変更契約・契約書の再作成で訂正するのが一般的です。
契約書を訂正する際の注意点
改ざんされやすい漢数字の使用は避ける
「〇文字削除 〇文字追加」など、〇に数字を記入するときは、算用数字(1、2、3など)を用いるのが一般的です。
漢数字を使う場合は、線を足すだけで改ざんできる「一、二、三」ではなく「壱、弐、参」を選びましょう。
捨印の場合は改ざん防止のためにコピーを取っておく
捨印は相手方の合意なしで訂正ができるため、無断で訂正や改ざんが行われる恐れがあります。
捨印が押された契約書は事前にコピーしておき、一方的な変更がされたときに指摘できるようにしておきましょう。
訂正印・捨印は契約書に押印した印鑑を使用する
訂正印・捨印には、契約書の締結時に押印した印鑑を使用しましょう。
訂正専用に販売されているいわゆる「訂正印」などの印鑑を用いると、訂正が無効となる場合があります。
訂正印・捨印は全員分が必要
契約の当事者が複数名いる場合は、全員分の押印が必要です。
一部の当事者の押印しかない場合、他の当事者が訂正に同意していないと見なされる恐れがあります。
たとえば、当事者が3人で訂正箇所が4箇所の場合、3人が4箇所すべてに押印する必要があります。
収入印紙が必要な場合がある
変更契約書で重要な事項を訂正した場合、印紙税の課税文書となるため変更契約書に収入印紙が必要となります。
収入印紙が必要となる変更契約書の例は、以下の通りです。
- 工事請負契約書で定めた取引条件のうち、工事代金の支払方法を変更するとき
- 製造請負基本契約書で定めた取引条件のうち、製品の納期を変更するとき
- 清掃請負基本契約書で定めた取引条件のうち、清掃範囲を変更するとき
また、契約書を再作成する場合でも、以前の契約書に収入印紙が必要であれば、再作成した契約書に収入印紙が必要です。
電子契約書の訂正方法
電子契約書の場合、訂正印や捨印での訂正はできません。
仮に電子契約書を印刷して訂正したとしても、効力が認められない可能性があります。
また、電子契約書の電子ファイルを書き換えることも、改ざん防止の観点からNGとなります。
電子契約書を訂正するときは、一部変更契約や全面変更契約、契約書の再作成で対応しましょう。
変更契約は、元の契約と同様に電子契約で行うと管理もスムーズです。
契約書の訂正は「非改ざん性」が重要になる
契約書を訂正する際は、修正前・修正後の内容が明記され、当事者双方が合意したことを証明する「非改ざん性」が重要となります。
そのため、修正前の内容が判別できなくなる修正液や修正テープは使用しないようにしましょう。
また、訂正と称して改ざんが行われ、契約トラブルに発展するケースも少なくありません。
相手方に無断で訂正できる捨印と全面変更契約は改ざんが行われがちなため、事前の対策が大切です。
- 捨印を押さないようにする(押す場合は、相手方が信用できるか見極める)
- 捨印での訂正が生じた際は、必ず内容を確認する
- ツールで文書を比較し、承諾していない変更がないか確認する
よくある質問
- どの訂正方法を選べばいいのかわかりません。
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契約書の訂正箇所から選択する方法と、訂正するタイミングから選ぶ方法があります。
それぞれの解説は下記リンク先でご確認ください。
- 訂正専用の印鑑である「訂正印」を使用してもよいですか?
- 契約書の訂正において、いわゆる「訂正印」は使用できません。
契約書の締結時に押した印鑑を使いましょう。
- 訂正印を押したり、訂正内容を記入するスペースがありません。
- 訂正箇所の近くにスペースがないときは、他の空いているスペースに押印・記入すればOKです。
- 一度訂正した契約書を再度訂正してもよいですか?
- 基本的に、契約書は何度訂正しても問題ありません。
また、同じ方法で繰り返し訂正しても構いませんが、訂正するごとに当事者全員の押印が必要です。
注意点として、訂正を繰り返すと直した箇所が判別しづらくなり、契約トラブルが起こる可能性があります。
- 契約書で訂正できない箇所はありますか?
- 基本的に、契約書で訂正できない箇所はありません。
ただし、当事者全員の同意が得られない場合は訂正自体ができません。
まとめ
契約書の訂正方法にはいくつかありますが、訂正印や捨印は誤字・脱字などの小さな誤りを直すのに適しています。
契約書の内容が大きく変わる場合は、変更契約や契約書の再作成がおすすめです。
なお、独断で契約書の訂正を行うと、私文書の変造として刑事罰の対象になる恐れがあります。
契約書の訂正は、必ず当事者全員の合意のもとで行いましょう。